この箱に救いは残されていない。
アンボックスを読んで、私が始めに思ったことがこれです。
「アンボックス」
ハコヅメのスピンオフで、
本作の主人公は我らが生安課のくノ一、秘匿捜査官黒田カナです。
本編の基本コメディの雰囲気とは異なり、
凄惨な事件を舞台としています。
この物語が好きかと問われれば迷わずYESと答えます。
しかし、人に紹介できるかと問われれば、本編ほど気軽には紹介しづらい、
というのが正直なところです。
【感想】
○別章その1
物語はカナの警察学校時代の回想から始まります。
カナが育ちの中で受けた「正義」による圧力。
中々重めですが、この後の話と比べれば比較的平和的?かなという印象。
ただ、「アンボックス」という物語を読んでいくうえで、
この「正義」あるいは「正義感」というのは1つのキーワードかなと思います。
○別章その2
本編でもおなじみカップル秋田るみと大山翔。
例によって、喧嘩に呼び出される町山署員。
るみさんへの説諭の中で、ハコヅメの中でも指折りの好きなセリフが語られます。
世界は広いからいろんな生き方が選び取れます
引用:秦三子「ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 別章 アンボックス」
今、この生きている瞬間を、なにか情熱を燃やせるものに向けるもよし、
無為に投げ捨てるように浪費するもよし。
無限の可能性、なんて大きなことを言うつもりはないけれど、
それでも、私たちの目の前にはたくさんの可能性があって、
私たちは自分の意志で進む方向を決められます。
少しでも自分の納得できる、充実を感じる、
本当の幸いに向かっていける生き方を心がけています。
―――そして、物語が急激にその色を変えます。
最悪の事件を告げる緊急無線が入る。
果たして、その箱は開かれたのである。
ここからは物語が進むにつれ、どんどん過酷さを増してきます。
途中、何度ページをめくる手をためらったか分かりません。
その5、その6、その7、その10。
その10は事件が解決を迎えてようやくほっとしているところだったので、
ある意味一番パンチがありました。。。
読み終えて。
読み終えて思ったことは、
この事件を通じて救いはなかったけれど、
この物語には、最後に未来への希望が残ったな、と。
【魅力】
①表情
「アンボックス」で好きなところの一つは表情です。
ハコヅメ本編でも、キャラクターの表情は非常に丁寧に描かれていますが、
「アンボックス」では、事件の内容が凄惨なこともあり更に!
という感じです。
物語が進むにつれ、登場人物の表情にもどんどん限界が見えてきます。
セリフはしっかりしているけれど、目がこの世界を見ていないというか。
この表情の変化がとても好きです。
特にカナ!
カナの心情のグチャグチャ具合が痛いほどに伝わってきました!
②生安課長
生安課長が秘匿捜査員として成長したカナについて語るシーンがあるんですが、
その時のセリフがめちゃくちゃ良いんですよ!
このコが勝手に育っていったんですよ
引用:秦三子「ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 別章 アンボックス」
本当は前後も踏まえてより魅力が増すんですが、
このセリフだけ切り取っても、良いセリフです。
部下の成長について、「俺の指導のおかげだ」と手柄のように言う人あれど、
こんな風に認めてくれる人ってそんなに多くはないんじゃないかなって思ってます。
勝手に育ったって、これ以上ない最高の承認だと思いますし、
部下にプレッシャーを与えない期待の掛け方だと思います。
カナの秘匿捜査員の件はそもそもがかなりの無茶ぶりですしね。(笑)
カナの配属に関する話の時は、かぐや姫系宇宙人なんて言われて、
実際本編まで含めた物語の中でもっとも腹の内が読めない人物の1人ではありますが、
どうして魅力たっぷりな人じゃないですか、という印象に一気になりました。
③取調官誰にするか問題
容疑者を確保して、いざ取調という段。
本部まで巻き込んだ大規模な特捜。
本部の捜査一係も関わってきます。
そう、エース中富係長。
本部の刑事部長は当然のように中富係長を取調官として指名しますが、
町山署刑事課長は源部長を指名します。
15巻その140天才と凡才 の再現のようなシーンです。
今回は実際の事件に際して。
中富係長はこの事件が現場最後(昇進を控えている)ため、
特に強い意気込みを持って臨んでいます。
かつて見限られてしまった刑事課長に成長した姿を見せたいと。
上記の思いを鎌田部長が刑事課長にぶつけるわけですが、
刑事課長は「捜査に私情を持ち込むな」と、
正論で切り返します。
そして実際にアサインされたのは―――。
ここはシンプルに格好いいシーンでした。
仕事の臨み方、上司の裁量etc.
【正義という圧力】
ここからは、内容そのものの感想というか、
読んで思ったことです。
始めの方で触れましたが、
「アンボックス」では「正義」「正義感」という言葉に、
フォーカスが当たっていると思っています。
具体的には、
①「岡島災害」で非難を拒否した老婆とその親族へ対する誹謗中傷
②本件「町山氏における殺人・死体遺棄事件」での被害者・被害者家族への誹謗中傷
ハイ。
この物語を読んでいて最も心の痛くなる要素の一つが、
実情を知らない外野からの誹謗中傷です。
今回の事件では、被害者女性が性風俗店で働いていた経験があるため、
SNSや匿名掲示板で被害者女性および親族が誹謗中傷されるシーンがあります。
被害者の妹のセリフ「事件以来世界が敵になっちゃったみたいです」が心に痛いです。
なんという醜悪、なんという邪悪。
でも、私たちのこの現実でも似たようなことってありますよね?
たとえば○○警察。
昨年2020年は、特にそういった人が話題にあがる一年だった気がします。
あるいは有名人の言動に対するインターネットでの誹謗中傷。
最近はなんでもかんでもすぐ炎上・炎上・炎上です。
インターネットに心の無い発言を発信しようとする人には、
発信前に一度考えてみてほしいです。
その言葉が、あなたの大切な誰かに向けられたとき、
果たしてどう思うのか。
じゃあ非難するような発言をすべて禁ずべきである、
という意見かといえばそういうわけではないです。
意見の表明や批判は大事です。
その線引きを誰がどうやって決めるのかって、
インターネットがここまで発達していなかった時代は、
匿名掲示板の意見なんか
それこそ便所の落書きのようなものだったかもしれないです。
本人や関係者には届かなくて問題にならなかったかもしれないです。
けれど、今はそうじゃないじゃないですか。
スマホなんてものがあって、いつでもどこでも誰でも、
ネットを通じて意見を発したり、人の意見を見たりできる時代です。
そんな時代に無遠慮に、人を傷つける発言を公開するって、
やっぱりよくないと思うんですよね。
ごく個人的な意見を申し上げれば、
インターネットで人の誹謗中傷に躍起になっているなんて人がいるのなら、
暇なんだな、という感じです。
手前の人生がつまらないからって、人をぶったたいて満足した気になっているなんて、
なんておめでたいんだろうと。
だから、物語の最後に登場した大学生七瀬クンの意見には、
大いに賛同するものです。
人を叩く暇な奴らの言うことはどうでもいいんです!
引用:秦三子「ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 別章 アンボックス」
自分の人生一生懸命生きていたら、
人のこと気にしている余裕なんてないんじゃないですかね。
と思う次第です。
その他所感
【その他の感想】
内容が重ためなもののため、メインで書いた感想もちょっと固めなものが多いですが、
そういうの抜きに好きなシーンもたくさんあります。
川合が凶器を探しているときの表情とか、
証言者のタクシーのおじちゃんとか、
「こともなげ」のときのカナの表情とか、
藤部長の狂犬モードとか(笑)
数え上げれば枚挙に暇がありません。
本編同様、細部に至るまで魅力たっぷりな一冊でした!!
【言い訳】
さて、
「ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 別章 アンボックス」の発売は2021/6/23です。
・・・1ヵ月も開いちゃったか―!!!(笑)
本当はずっと書きたい、書かないとと思い続けていたんですが、
なんというか好きすぎて!!
好きすぎて書ききれない!!
という奇妙な精神状態になっていまして。
それこそ、魅力的なシーンはいっぱいあって、
どこを切り出して語ろうかな~とか、
どこまで話を掘り下げようかな~とか、
どんな話の展開にしようかな~とか、
なんか色々ごちゃごちゃ考えちゃって、
なかなか公開まで至れませんでした。
とはいえ、書かなければ始まらない。
やると決めたのなら、中途半端に悩んでいる時間が一番無駄です。
やるならやる、やらないならやらない。
そして、私の中にやらないという選択はなかったので、
まずは稚拙でも書いて公開してしまおうと。
いずれ機会があったなら、その時見直して、
リテイクすればいいやと。
そうしてようやく重い腰を上げて、記事作成に至ったわけです。
好きなモノほどどう話していいか困るって気持ち分かりません??
以上!